クエン酸・ビタミンB1は乳酸対策になる?|代謝を支えることと筋力改善の違い
疲れたときは、酸っぱい飲み物を選ぶ。糖をエネルギーに変えるには、ビタミンB1がよい。こうした説明を見かけると、クエン酸やビタミンB1で乳酸を減らせるのでは、と考えたくなります。
結論からいうと、ビタミンB1の不足を補うことには明確な意味があります。一方、必要量を満たしている人が追加で摂れば、乳酸が減って筋力やサルコペニアが改善するとは、現在の研究からは言えません。
クエン酸も、人の運動研究で血中乳酸を調べた報告はありますが、結果は一様ではなく、サルコペニアの改善を示したものではありません。今回は、身体の中の仕組み、測定値の変化、生活に意味のある効果を分けて考えます。
この記事の要点
- ビタミンB1は、ピルビン酸をエネルギー産生へつなぐ反応に必要である。
- B1欠乏時の補充と、十分に摂れている人への追加摂取は、同じ問いではない。
- クエン酸がTCA回路に登場することだけでは、飲めば乳酸処理が速くなるとは言えない。
- 血中乳酸の変化、疲労感、運動成績、筋力、サルコペニアは別々に評価する必要がある。
- 現在の人研究から、クエン酸やB1のサプリメントをサルコペニア対策の中心に置く根拠は得られていない。
「代謝に必要」と「摂れば改善する」の間にあるもの
栄養の説明では、身体の中の反応経路が、そのまま商品の効果として語られることがあります。しかし、少なくとも三つの段階を分ける必要があります。
| 段階 | 確かめていること | 今回の例 |
|---|---|---|
| 生化学的な役割 | 体内の反応に必要か、どこで使われるか | B1は酵素の補酵素として働く |
| 測定値の変化 | 摂取後に血中乳酸などが変わるか | 運動後の乳酸濃度を比較する |
| 生活に意味のある効果 | 筋力、歩行、疲労、転倒などが改善するか | サルコペニアへの介入効果 |
一つ目が確かでも、二つ目や三つ目まで自動的に成立するわけではありません。血中乳酸が低くなっても、それだけで筋肉が強くなったとは言えません。運動成績が変わっても、高齢者の歩行や転倒に同じ効果が出るとは限りません。
ビタミンB1は、乳酸とどう関わるのか
ビタミンB1は、体内では主にチアミン二リン酸という形で、いくつかの酵素反応を助けます。その一つが、ピルビン酸をアセチルCoAへ変えるピルビン酸脱水素酵素の反応です。糖から生じた炭素をTCA回路へつなぐ入口に当たります。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」も、B1がグルコース代謝、TCA回路、分岐鎖アミノ酸代謝などに関わると説明しています。[1]
B1が著しく不足すると、この入口が働きにくくなり、ピルビン酸が乳酸側へ回りやすくなります。したがって、B1欠乏に伴う乳酸アシドーシスでは、医療のもとでB1を補うことが治療上重要になる場合があります。
ただし、これは運動後に一時的に乳酸が増える状態や、第1回で紹介した高齢マウスの肝臓―筋肉の代謝障害と同じではありません。「乳酸」という測定値が共通していても、原因、重症度、測っている場所が違います。
不足している人では効いても、全員に同じ効果が出るとは限らない
この違いがよく見えるのが、敗血症性ショックの患者を対象とした2016年の無作為化二重盲検試験です。血中乳酸が高い成人88人へ、静脈からB1またはプラセボを投与しました。
参加者全体では、24時間後の乳酸値や死亡などに有意な差はありませんでした。一方、試験開始時にB1欠乏があった28人の事前規定サブグループでは、B1群の24時間後の乳酸値が低い結果でした。少人数の重症患者を対象とするサブグループ解析なので、健康な人のサプリメント利用へは広げられません。それでも、「同じB1投与でも、開始時の栄養状態によって結果が変わり得る」ことを示す例です。[2]
乳酸が高い重症患者は、原因の確認と治療を要します。家庭でB1やクエン酸を試して経過を見る場面ではありません。
健康な人の運動では、どこまで分かっているか
2013年には、運動経験のある女子大学生9人を対象に、持久的トレーニング、B1誘導体の摂取、プラセボを比較したクロスオーバー研究が報告されています。4週間のB1誘導体摂取後には、運動中の一部の時点で血中乳酸と主観的運動強度が低くなりました。[3]
ただし、対象は9人だけで、一般の食事量を大きく超える用量のB1誘導体を用いた試験です。高齢者でも、サルコペニアのある人でもありません。測定したのは主に運動時の代謝指標と疲労感で、長期の筋力、歩行能力、転倒は評価していません。この小規模研究だけで、B1サプリメントを運動の代わりや筋力改善策として扱うことはできません。
B1摂取量とサルコペニアの「関連」は見つかっている
2024年には、米国NHANESの2011~2018年データを使い、B1・B2摂取量と比較的若い年代のサルコペニアとの関係を調べた横断研究が発表されました。食事からのB1摂取量が多い人ほど、早期発症サルコペニアの該当割合が低いという関連が報告されています。[4]
これは一時点の食事調査と身体組成などを比べた観察研究です。B1を追加した結果ではありません。食事量、食品の組み合わせ、所得、活動量、健康状態などの影響が残る可能性があります。論文内でも、サプリメントを含む総摂取量については有意な関連がなく、介入研究による確認が必要とされています。
したがって、「B1の摂取量が多い人にサルコペニアが少なかった」と「B1サプリメントでサルコペニアを治せる」は、別の主張です。
クエン酸はTCA回路に入るから、乳酸を消してくれるのか
クエン酸は、細胞がエネルギーを取り出すTCA回路の中間体です。この回路は「クエン酸回路」とも呼ばれます。ここから、「クエン酸を食べれば回路が回り、乳酸が消える」という説明が生まれます。
しかし、回路の構成物質を口から追加することと、筋肉の中の代謝速度を上げることは同じではありません。消化管からの吸収、肝臓などでの代謝、組織への移動、酵素による調節、運動強度といった複数の段階があります。TCA回路は、クエン酸という一成分だけで一律に速くなる単純な輪ではありません。
クエン酸の人研究は、結果をどう読めばよいか
2024年の研究では、健康な男子学生41人が自転車運動を行い、クエン酸飲料を運動前または運動後に飲む条件、水を飲む条件、何も飲まない条件を経験しました。運動後30分までの血中乳酸を比べたところ、四条件の乳酸値や低下率に有意差は認められませんでした。摂取時期同士の差も明確ではありませんでした。[5]
また、「クエン酸」と「クエン酸ナトリウム」は区別が必要です。クエン酸ナトリウムは、酸塩基平衡を変える目的でスポーツ研究に使われてきたクエン酸塩です。レモンや梅に含まれるクエン酸を食べることと、同じ介入ではありません。
2014年の無作為化クロスオーバー試験では、車いす陸上のエリート選手9人がクエン酸ナトリウム、カフェイン、両者、プラセボの条件で1,500m走を行いました。クエン酸ナトリウムで運動前のpHと重炭酸イオンは上がりましたが、走行時間は改善しませんでした。[6]
2025年の試験でも、トレーニングを積んだ女性10人の6km自転車走において、クエン酸ナトリウムとプラセボの成績に有意差はありませんでした。比較に使われた重炭酸ナトリウムでは成績が良く、血中乳酸はむしろプラセボより高くなりました。乳酸値の低さを、そのまま良い運動成績と見なせないことが分かります。[7]
研究を並べると、何が分かるか
| 研究 | 対象・介入 | 分かったこと | 分からないこと |
|---|---|---|---|
| Donninoら・2016[2] | 敗血症性ショック88人/静脈B1 | 全体では24時間後乳酸に差なし。B1欠乏群では低下 | 健康な人、高齢者、サルコペニアへの効果 |
| Choiら・2013[3] | 女子大学生9人/高用量B1誘導体 | 運動中の一部時点で乳酸・疲労感が低下 | 長期の筋力、歩行、転倒への効果 |
| Xuら・2024[4] | 米国成人の横断データ/食事からのB1 | 摂取量と早期発症サルコペニアに逆相関 | B1を追加したときの因果的効果 |
| Okanoら・2024[5] | 男子学生41人/クエン酸飲料 | 四条件で運動後乳酸に有意差なし | 高齢者の筋機能への効果 |
| Flueckら・2014[6] | 車いす選手9人/クエン酸ナトリウム | pH等は変化したが競技成績に差なし | 食品のクエン酸やサルコペニアへの効果 |
研究の対象も、形態も、評価項目も異なります。B1とクエン酸を「乳酸対策」という一つの箱に入れると、この違いが見えなくなります。
食事では、サプリメントより先に何を確認するか
B1は「不足させない」ことを第一に考える
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、B1の推奨量は65歳以上の男性で1.0mg/日、50~74歳の女性で0.8mg/日、75歳以上の女性で0.7mg/日です。これは健康な人や集団の習慣的な摂取を考える基準で、病気の治療量ではありません。[1]
B1は豚肉、魚卵、豆類、種実類、玄米や胚芽を残した穀類などから摂れます。一品を「乳酸を消す食品」として選ぶより、食事量そのものが落ちていないか、主食だけで済む日が続いていないかを見ます。
食欲が低下している場合は、食べる量が減ったときの栄養密度の考え方も参考になります。筋肉を保つにはB1だけでなく、十分なエネルギー、たんぱく質、ほかのビタミンやミネラルも必要です。
酸味は、食べやすさを助ける選択肢になる
レモン、かんきつ類、梅、酢を使った酸味は、味の変化をつける方法として食卓に取り入れられます。食欲が落ちたときに食べやすいと感じる人もいます。
ただし、これは味付けとしての利点です。酸味のある食品を食べたことから、筋肉の乳酸が除かれ、筋力が上がったとは判断できません。酸の強い飲料を頻繁に少しずつ飲み続けると歯への負担になり得るため、通常の食事の中で使い、口の中に長くためないようにします。
クエン酸塩は、食品のクエン酸と同じ扱いにしない
クエン酸ナトリウムやクエン酸カリウムは、医療やスポーツ研究で使われることがあります。ナトリウムやカリウムを含み、量によって胃腸症状も起こり得ます。腎臓病、心臓病、血圧や電解質に関わる治療中の人は、自己判断で高用量を用いず、医療者に確認してください。
よくある質問
クエン酸を飲めば、運動後の乳酸は早く消えますか?
一部の小規模研究は変化を報告していますが、結果は一様ではありません。2024年の男子学生41人の試験では、クエン酸飲料と水・無摂取の条件で、運動後乳酸に有意差はありませんでした。乳酸が下がる速さだけで、回復や筋力を判断することもできません。[5]
ビタミンB1を多く摂れば、乳酸がたまりにくくなりますか?
B1欠乏では補充が重要です。しかし、必要量を満たしている人が追加すれば、同じ割合で乳酸が減るとは限りません。開始時のB1状態、運動条件、用いた製剤、測定時点を確認する必要があります。
レモンや梅干しは、サルコペニア対策になりますか?
食品として食事へ組み込むことはできますが、それ自体でサルコペニアを改善したとする人の介入試験は確認できませんでした。筋力を保つ土台は、身体に合った運動と、エネルギー・たんぱく質・微量栄養素を含む食事です。
疲労感があるなら、乳酸を下げればよいですか?
疲労感には睡眠、感染症、貧血、薬、気分、食事不足、運動負荷など多くの要因があります。血中乳酸は疲労感そのものを測る検査ではありません。強い疲労や息苦しさ、食事量・体重の低下、日常動作の悪化が続く場合は、原因を医療者と確認しましょう。
食事で代謝を支えるとは、不足を避けることから始まる
クエン酸・ビタミンB1は乳酸対策になるのか。この問いには、同じ答えを二つの成分へ当てはめることはできません。
B1は代謝に欠かせず、欠乏時の補充は重要です。クエン酸は代謝回路の中間体ですが、摂取すれば回路全体が速くなり、乳酸が消えて筋力が上がるという証拠はそろっていません。
第2回で見たように、乳酸は運動中に使われる燃料でもあります。数字を低くすること自体を目的にせず、食事の不足、運動の継続、日常動作の変化を一緒に見ていくことが大切です。
次回は視点を歴史へ移し、古代の人びとが老いと疲れを、食事・運動・休息の組み合わせからどう捉えたかをたどります。
参考文献・資料
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)各論:水溶性ビタミン/ビタミンB1」。2026年9月16日確認。
- Donnino MW, et al. Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial of Thiamine as a Metabolic Resuscitator in Septic Shock. Crit Care Med. 2016;44:360–367. 敗血症性ショック患者88人の無作為化試験。
- Choi SK, et al. The effects of endurance training and thiamine supplementation on anti-fatigue during exercise. J Exerc Nutr Biochem. 2013;17:189–198. 女子大学生9人のクロスオーバー研究。
- Xu Y, et al. Association of vitamins B1 and B2 intake with early-onset sarcopenia in the general adult population of the US. Front Nutr. 2024;11:1369331. NHANESを用いた横断研究。
- Okano S, et al. Effect of timing of citrate drink ingestion on blood lactate removal. J Phys Ther Sci. 2024;36:772–775. 健康な男子学生41人の運動研究。
- Flueck JL, et al. Influence of caffeine and sodium citrate ingestion on 1,500-m exercise performance in elite wheelchair athletes. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2014;24:296–304. 9人の無作為化クロスオーバー試験。
- Martin RAXJ, et al. Individual and Combined Effects of Sodium Bicarbonate and Sodium Citrate Supplementation on High-Intensity Exercise Performance in Highly Trained Female CrossFit Athletes. Int J Sports Physiol Perform. 2025;20:1386–1392. 10人の無作為化クロスオーバー試験。
