乳酸は筋肉の敵なのか|運動で増える乳酸と、処理できず蓄積する乳酸

「乳酸が筋力低下に関わる」と聞けば、運動で乳酸を増やしてよいのか、気になるかもしれません。一方で、乳酸は身体が使うエネルギー源でもあります。

この二つは、乳酸を「よい物質」「悪い物質」に分けるだけでは理解できません。どこで、どのくらいの時間、どのような状態で増え、何に使われているかを見る必要があります。

今回は、乳酸を燃料として使う人の研究と、筋肉の老化を調べた動物研究を比べます。特に、乳酸の蓄積、細胞内の酸性化、たんぱく質の「乳酸化」という三つを区別して読み進めます。

この記事の要点

  • 乳酸は、運動中にも利用されるエネルギー源である。
  • 乳酸濃度、細胞内のpH、たんぱく質の乳酸化は、別の測定対象である。
  • 筋肉の老化に関する研究は、対象や介入、調べた分子が異なる。
  • 「乳酸を増やせば若返る」「乳酸を出さなければ筋肉を守れる」とは結論できない。

乳酸は、運動中に使われる燃料でもある

乳酸は、糖を利用する代謝の中でつくられます。その後も身体の中を移動し、エネルギーとして利用されます。血液に出てきた乳酸が、すべて不要なものとして捨てられるわけではありません。

2013年のEmhoffらの研究では、持久的なトレーニングをしている男性6人と、していない男性6人を対象に、安静時と運動中の乳酸の利用を追跡しました。目印を付けた乳酸などを用いることで、乳酸を直接酸化する経路と、一度ブドウ糖になってから利用される経路を調べています。

両方の経路による利用は、安静時より運動中に増加しました。これは、人の身体が運動中に乳酸を燃料として使うことを示した実験です。ただし、少人数の男性を対象とした代謝研究であり、乳酸を摂取すれば筋肉が増えることや、高齢者のサルコペニアを改善することを示した試験ではありません。[1]

乳酸の値を見るときは、つくられる側だけでなく、運ばれ、使われる側も考えます。ある時点の濃度と、身体の中でどれほど乳酸が行き来しているかは、同じ情報ではありません。

「乳酸が増える」と「酸性になる」は分けて読む

ここで言葉を整理しておきましょう。乳酸に関する記事には似た言葉が並びますが、それぞれが示すものは異なります。

言葉何を見ているか
乳酸濃度血液や組織など、測定した場所にある乳酸の濃さ
酸性化pHが低い方向へ変わること
乳酸化たんぱく質に乳酸に由来する化学修飾が付くこと

血液の乳酸濃度を測った結果だけでは、筋肉の細胞内pHや、特定のたんぱく質の乳酸化まで分かりません。「乳酸が増えた」という一文を読むときには、何を採取し、何を測ったのかを確認することが大切です。

第1回で紹介した2026年のEguchiらのマウス研究は、肝臓の乳酸処理能力の低下、骨格筋への乳酸蓄積、細胞内の酸性化を調べたものです。NAD+の低下を介する筋機能の障害を示し、肝臓側の代謝に介入する実験も行っています。[2]

この結果を、健康な人が運動中に経験する一時的な乳酸の上昇へ、そのまま当てはめることはできません。また「乳酸は酸性化に一切関係しない」と言い切るのも行き過ぎです。研究で扱った乳酸の移動と、酸性化が起きる条件を確かめる必要があります。

乳酸化が、筋肉の老化に関わるという研究

もう一つの論点が「ヒストン乳酸化」です。ヒストンは、DNAが巻き付くたんぱく質です。そこに付く化学修飾は、遺伝子の働きの調節に関わります。乳酸化はその修飾の一つで、細胞が酸性になることとは意味が違います。

2025年のMengらの研究では、細胞の老化やマウスの筋肉の老化に伴って、ヒストン乳酸化が低下しました。研究者らは、DNA修復やたんぱく質の状態を保つ仕組みに関わる遺伝子との関係を調べています。

また、中年期のマウスに走行運動を行わせる実験では、筋肉のヒストン乳酸化が増え、関連する遺伝子の働きにも変化が見られました。乳酸に関連する仕組みが、細胞の維持に関わる可能性を示す結果です。[3]

ただし、運動は身体の多くの仕組みを同時に変えます。この結果から、人でも乳酸を多く出すほど老化が抑えられると結論することはできません。ヒストン乳酸化の役割と、乳酸を増やす健康法の有効性は、別に検証すべき問いです。

人の運動研究では、増加しなかった報告もある

Mattinglyらは2024年、大学生年代の参加者を対象に、筋力トレーニングや自転車運動に伴う筋肉のたんぱく質乳酸化を調べました。筋力トレーニングの研究は12人、自転車運動の研究は9人でした。

採取した筋肉で調べた範囲では、乳酸化の有意な変化は確認されませんでした。ただし、対象人数、採取時点、測定方法には限界があります。全体の変化が検出されなくても、特定のたんぱく質や部位で変化していた可能性までは否定できません。[4]

この研究は「人には乳酸化がない」という証明ではありません。同時に、動物研究だけから「運動の効果は乳酸化で説明できる」と広げることにも慎重さが必要だと分かります。

研究が食い違って見えるとき、何を比べるか

研究対象と中心に見たもの読み取る範囲
Emhoffら・2013年[1]人/運動中の乳酸のエネルギー利用乳酸は燃料として使われる
Eguchiら・2026年[2]主にマウス/肝臓と筋肉の代謝・酸性化特定の代謝障害と筋機能の関係
Mengら・2025年[3]細胞・マウス/ヒストン修飾と遺伝子の働き乳酸化と老化関連経路の関係
Mattinglyら・2024年[4]人・培養細胞/運動等に伴うたんぱく質修飾調べた条件では乳酸化の有意な変化なし

これらは、同じ条件で同じ問いに答えた四つの実験ではありません。燃料としての利用、細胞内の環境、遺伝子の調節は、互いに関係しながらも異なる現象です。

条件の違いは、結果を理解する手がかりになります。ただし、それだけで論文間の違いがすべて解決したわけではありません。同じ方法、同じ対象、同じ採取時点で比較する研究も必要です。

したがって、「短時間ならよく、長時間なら悪い」という単純な線引きもできません。時間に加え、乳酸の濃度、pH、組織、健康状態、測定した指標がそろって初めて、比較ができます。

日常では、乳酸の数字を目的にしない

筋肉を保つための運動では、自分に合った負荷で続けられることが大切です。サルコペニアへの運動としては、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動が重視されています。関節の痛みや持病がある場合は、医師や理学療法士などと方法を調整します。[5]

乳酸を怖がって身体を動かさなくなることも、乳酸を増やすために毎回限界まで追い込むことも、今回の研究から導かれる方針ではありません。歩く、立つ、荷物を持つといった動作と、疲れから回復できているかを見ながら考えましょう。

食事量が減っている場合には、運動だけを追加するのでなく、食べられる量と内容も確認します。具体的な工夫は、「食べる量が減ったら、たんぱく質はどう補う?」で紹介しています。

よくある質問

運動で増える乳酸と、病気のときの乳酸は別物ですか?

今回比較したのは、別種の「よい乳酸」「悪い乳酸」ではありません。乳酸をつくる・運ぶ・使う状況と、その周囲の条件が異なります。物質の名前が同じでも、身体への影響まで同じになるとは限りません。

乳酸が燃料なら、乳酸を摂れば運動の代わりになりますか?

燃料として利用できることと、運動による適応を再現できることは別です。ここで紹介した研究から、乳酸の摂取を運動の代わりに勧めることはできません。

乳酸濃度から、筋肉の乳酸化が分かりますか?

濃度だけでは判断できません。乳酸化を調べるには、対象のたんぱく質や修飾部位を測る必要があります。血液の値を、そのまま細胞内の変化へ置き換えないことが大切です。

乳酸化を増やせば、若返れますか?

人の若返りを示した研究ではありません。どの組織のどの修飾が、どの機能に関わるかを確かめる段階です。

乳酸の働きは、使われ方と条件から読む

乳酸は筋肉の敵なのか。この問いには、「乳酸の存在だけで、筋肉への良し悪しは決まらない」と答えられます。

乳酸をつくること、使うこと、細胞の環境を保つこと。その関係を見ていくと、疲労物質という一語では見えなかった身体の働きが見えてきます。

次回は「それなら食事で代謝を支えられるのか」という疑問へ進みます。クエン酸やビタミンB1の働きと、実際の筋力改善を示す証拠を分けて考えます。

参考文献・資料

  1. Emhoff CAW, et al. Direct and indirect lactate oxidation in trained and untrained men. J Appl Physiol. 2013;115:829–838. 人の代謝追跡研究。
  2. Eguchi T, et al. Impaired liver-muscle lactate metabolism causes sarcopenia via lactic acidosis in skeletal muscle in mice. Sci Adv. 2026;12:eaeb4011. マウスを中心とする機序研究。
  3. Meng F, et al. Histone Lactylation Antagonizes Senescence and Skeletal Muscle Aging by Modulating Aging-Related Pathways. Adv Sci. 2025;12:e2412747. 細胞・マウス研究。
  4. Mattingly ML, et al. Acute and Chronic Resistance Training, Acute Endurance Exercise, nor Physiologically Plausible Lactate In Vitro Affect Skeletal Muscle Lactylation. Int J Mol Sci. 2024;25:12216. 人の運動研究・培養筋細胞実験。
  5. 長寿科学振興財団・健康長寿ネット:サルコペニアに対する運動。2023年更新。一般向け解説。

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