スギナ|なぜ春だけ「つくし」という別の姿になるのか
春の土手に、節のある茶色い茎が立ちます。つくしです。
しばらくすると、同じ場所を緑の細い枝が輪のように広がる草が覆います。こちらはスギナ。あまりに姿が違うため、別々の植物に見えます。
しかし、つくしとスギナは同じ植物 Equisetum arvense の二つの地上部です。では、なぜ一つの植物が、春だけ別の姿をつくるのでしょうか。
この記事の要点
- つくしは胞子をつくる「胞子茎」、緑のスギナは光合成する「栄養茎」
- 二つは地下茎でつながり、繁殖と養分づくりを分担している
- 日本ではつくしが春の食材、緑の地上部が民間生薬モンケイや健康茶の原料になった
- スギナ由来のケイ素が吸収されることと、骨・髪・爪への効果があることは別の話
- 利尿作用のヒト試験は一つあるが、健康な男性36人・4日間の特定エキスによる小規模研究
- 長期・大量摂取、腎臓・心臓の病気、野外採取、チアミナーゼ活性には注意が必要
基本情報
- 和名:スギナ
- つくしの表記:ツクシ、土筆
- 学名:Equisetum arvense L.
- 科名:トクサ科(Equisetaceae)
- 生活型:地下茎をもつ多年生のシダ植物
- つくしの植物学的な役割:胞子をつくる胞子茎
- 緑のスギナの役割:光合成する栄養茎
- 日本で用いられてきた部位:若い胞子茎は食用、緑の地上部は民間生薬・茶原料
- 民間生薬名:モンケイ(問荊)
- 英名:field horsetail、common horsetail
- 主な分布:日本を含む北半球の亜寒帯・温帯
- 主な生育環境:畑、畦、土手、河川敷、道ばた、空き地など
英国王立植物園キューの Plants of the World Online は、Equisetum arvense を受容された種とし、日本を含む北半球の広い範囲に自生する地下茎性植物としています。
つくしとスギナは、なぜ違う姿なのか
答えは、仕事を分けているからです。
つくしは、先端の胞子嚢穂で胞子をつくり、散布するための地上部です。花を咲かせず、種子もつくりません。茶色く、枝をほとんど広げない姿は、光合成よりも繁殖に役割を振った「胞子茎」だからです。
一方、私たちが普通「スギナ」と呼ぶ緑の地上部は「栄養茎」です。中空の茎には節があり、そこから細い枝を輪生させます。緑の茎と枝で光合成し、つくった養分を地下部へ送ります。
一般には早春の胞子茎が先行し、その後に栄養茎が目立つようになります。ただし、気候や株の状態によって出現時期が重なることもあります。「つくしが完全に消えた瞬間、別の草へ入れ替わる」のではありません。
| 呼び名 | 植物学的な部位 | 主な役割 | 人との関わり |
|---|---|---|---|
| つくし | 胞子茎 | 胞子をつくり散布する | 若いものを春の食材として利用 |
| スギナ | 栄養茎 | 光合成して養分をつくる | 乾燥して民間生薬や茶原料に利用 |
| モンケイ(問荊) | 主に緑の地上部を乾燥した薬草材料 | 植物学上の器官名ではない | 日本の民間薬の文脈で用いられた名 |
| Equiseti herba | E. arvense の地上部 | 欧州の薬草原料名 | 特定の製剤を伝統的植物医薬品として評価 |
見えない本体は、地下にある
つくしとスギナを一本ずつ見ていると、二つの姿の関係は分かりにくいかもしれません。けれども土の下では、同じ株の地下茎につながっています。
スギナは地下茎を横へ伸ばし、そこから何本もの地上部を出します。地上の茎を抜いても、地下茎や塊茎が残れば再び芽を出せるため、畑や庭では手強い草として知られます。
国立科学博物館も、春のつくしは胞子を飛ばし、その後に現れる緑のスギナは光合成して養分を得ると説明しています。胞子による新しい場所への拡散と、地下茎による同じ場所での持続。この二つを組み合わせることが、スギナのしぶとさです。
なぜ、つくしは食べ、スギナは茶にしたのか
日本では、柔らかい若いつくしから「はかま」と呼ばれる葉鞘を外し、おひたしや佃煮などにする食文化があります。食べるのは春の短い期間に現れる胞子茎です。
対して、緑の栄養茎は硬く、細い枝を多く出します。日本の薬草文献では、初夏の緑の地上部を乾燥したものがモンケイ(問荊)と呼ばれ、尿の不調などに用いる民間薬として記録されました。現在は「スギナ茶」やサプリメントにも加工されます。
ただし、季節の食材を一度食べることと、乾燥草の茶や濃縮エキスを毎日摂ることは、部位、加工、摂取量、継続期間が違います。同じ植物だからといって、安全性や作用まで一括りにはできません。煎じ薬と健康茶の境界については、「薬草茶は、いつから日常の飲み物になったのか|煎じ薬と健康茶の違い」でも整理しています。
「スギナ」と「つくし」という名が見ていたもの
スギナの名には、枝を広げた姿が杉の幼木に似るため「杉菜」となったという説があります。もう一つは、節で抜いた茎を差し戻せることから「継ぐ菜」が転じたという説です。
日本薬学会の解説では、中国の『本草綱目』に、節と節が接する姿を表す「接続草」の名が見えると紹介されています。効能ではなく、切れてもつなげられそうな節の構造が名になったわけです。
学名の属名 Equisetum は、ラテン語の「馬」と「剛毛」に由来するとされます。英名 horsetail も馬の尾を思わせる姿から生まれました。和名も英名も、この草をまず形で覚えた歴史を残しています。
民間生薬モンケイは、日本薬局方の生薬なのか
モンケイは漢字で「問荊」と書き、日本ではスギナの緑の地上部を乾燥した民間生薬名として紹介されてきました。過去の薬草書には、利尿をはじめ複数の用途が記録されています。
しかし、伝統的に用いられたことと、現在の医薬品として有効性・安全性が確認されていることは同じではありません。
2026年8月17日に、第十九改正日本薬局方の「生薬等」と日本薬局方外生薬規格2022を「スギナ」「モンケイ」「Equisetum」で検索した範囲では、モンケイの医薬品各条は確認できませんでした。現在の日本で、公定された生薬規格を持つことを意味する「日本薬局方収載生薬」としては扱えません。
食品原料側にあることは、効能の承認ではない
厚生労働省の2023年通知にある食薬区分の例示では、スギナの「栄養茎・胞子茎」が、「医薬品的効能効果を標榜しない限り医薬品と判断しない成分本質」の側に掲載されています。別名欄にはツクシ、モンケイも記載されています。
これは、スギナやつくしを食品原料として扱う余地があるという制度上の分類です。腎炎、膀胱炎、むくみ、骨粗鬆症などへの治療効果が認められた、あるいは野外の株を長期・大量に摂っても安全だと保証された、という意味ではありません。
欧州の Equiseti herba は、何を根拠に使われるのか
欧州医薬品庁(EMA)は、Equisetum arvense の地上部を Equiseti herba(horsetail herb)として評価しています。対象は、乾燥して細切した地上部、生の地上部から得た搾汁、乾燥地上部から得た乾燥・液状エキスなど、原料と調製法が定められた製剤です。
EMAの結論は、軽い尿路の不調で尿量を増やして尿路を洗い流す目的と、表在性の小さな傷への使用です。ただし、根拠区分は「伝統的使用」。臨床試験による有効性の証明が十分だからではなく、長年の使用実績と、指定された条件では医療者の監督なしに用いうるという評価です。
2016年の最終モノグラフは、成人と12歳を超える青少年を対象とし、尿路症状が1週間を超える場合には医療者へ相談するよう求めています。EMAの掲載ページでは、2025年に2回目の定期見直しに向けたデータ募集が行われましたが、2026年8月17日時点で公開されている最終モノグラフは2016年版です。
現代研究:ケイ酸が多いと、骨・髪・爪に効くのか
スギナはケイ素を多く蓄積する植物として知られます。茎のざらつきが研磨に使われた歴史もあり、「シリカ」「ケイ酸」を前面に出した製品が見られます。
ここで分けるべきなのは、次の三段階です。
- 植物にケイ素が含まれる
- スギナ製剤から人の体内へケイ素が吸収される
- その摂取によって骨、髪、爪などの健康状態が改善する
2022年刊行(2021年先行公開)の無作為化パイロット研究では、健康な男性12人が、ケイ素濃度の異なるスギナ茶1Lまたは低ケイ素水を摂取しました。スギナ茶の後には血清・尿中ケイ素が増え、少なくとも研究条件ではケイ素が吸収されることが示されました。
しかし、対象は12人の健康な男性で、観察期間も短く、骨密度、骨折、抜け毛、髪質、爪の強度は評価していません。人の細胞を使った試験管内研究では、スギナ抽出物が破骨細胞への分化へ影響した報告がありますが、細胞培養の結果を、そのまま飲用時の骨への効果にはできません。
「スギナにケイ素が多い」ことは確かでも、「飲めば骨や髪が強くなる」ことは、現在のヒト研究からは確認できません。
利尿作用のヒト試験は、どこまで分かっているのか
2014年には、健康な男性36人を対象に、スギナ乾燥エキス、ヒドロクロロチアジド、プラセボを比べる無作為化二重盲検クロスオーバー試験が報告されました。
使用されたのは、地上部由来の規格化乾燥エキス900mg/日です。それぞれ4日間摂取し、10日間の休薬期間を挟みました。24時間の水分出納では、スギナ群はプラセボ群より負の値となり、研究内では利尿作用を示す結果でした。
ただし、この試験から言えるのは、特定の乾燥エキスを健康な男性が4日間摂ったときの、限られた指標についてです。家庭で採ったスギナ茶、別の抽出物、女性、高齢者、腎臓病や心不全の患者、長期摂取へ結果を広げることはできません。むくみ、膀胱炎、尿路感染症、腎炎を治療できることも示していません。
EMAもこの試験を検討しましたが、参加者が少なく、用いた製剤情報にも限界があるとして、最終的には「確立した臨床使用」ではなく「伝統的使用」の根拠に位置づけています。
スギナ・つくしの利用上の注意
- 治療の代わりにしない:発熱、排尿痛、血尿、背中や脇腹の強い痛み、尿が出にくい、急なむくみ、息苦しさがある場合は、薬草茶で様子を見ず医療機関へ相談してください。
- 心臓・腎臓の病気では自己使用しない:EMAは、重い心疾患・腎疾患などで水分摂取を減らすよう指示されている人に、尿路目的のスギナ製剤を使用しないよう注意しています。
- 利尿薬などの服薬中は相談する:尿量や水分・電解質管理に関わる薬を使用している人は、スギナ茶や濃縮製品を加える前に医師・薬剤師へ確認してください。
- アレルギーと胃腸症状:EMAは、アレルギー反応と、経口使用時の軽い胃腸症状を報告された副作用として挙げています。
- 妊娠・授乳中と子ども:安全性情報が十分ではありません。医薬品としての欧州モノグラフも12歳以下を対象にせず、妊娠・授乳中の自己使用を支持する十分な資料はありません。
- チアミナーゼ活性:スギナではビタミンB1を分解する酵素活性が品質上の問題になります。カナダ保健省は、スギナを含む自然健康製品に「チアミナーゼ活性がないこと」を規格として求めています。家庭での乾燥や加熱が同じ品質条件を満たすとは限りません。
- 長期・大量摂取を前提にしない:季節のつくし料理と、スギナ茶・粉末・濃縮エキスを連用することは別の摂取条件です。食品原料側の区分は、あらゆる量・期間の安全性を保証しません。
- 野外採取品を自己判断で飲まない:トクサ属には別種や雑種があり、写真だけの同定は不十分です。道路沿い、農地、除草剤散布地では、排気、農薬、動物の排泄物、土壌汚染なども問題になります。
まとめ
つくしとスギナが違う姿をしているのは、一つの植物が繁殖と養分づくりを分担しているからです。
茶色いつくしは胞子を散らす胞子茎。緑のスギナは光合成する栄養茎。二つは土の下の地下茎でつながり、春の短い時間と、その後の長い生育期間を使い分けています。
人もまた、その二つを別の仕方で使いました。柔らかい胞子茎は季節の食材に、緑の地上部はモンケイや薬草茶に。けれども、食の記憶、民間薬の歴史、現代の食品、欧州の伝統的植物医薬品は、同じ言葉でまとめられません。
ケイ素の吸収や短期の利尿作用を示す小規模研究はあります。しかし、骨・髪・爪への臨床効果や、病気を治療する力、長期摂取の安全性まで証明されたわけではありません。
春の地面に立つ一本のつくしは、別の草の前触れではなく、地下で生き続けるスギナが一時だけ見せる「繁殖の姿」です。
よくある質問
つくしとスギナは、本当に同じ植物ですか?
はい。どちらも Equisetum arvense の地上部です。つくしは胞子をつくる胞子茎、緑のスギナは光合成する栄養茎で、地下茎につながっています。
つくしには花が咲きますか?
咲きません。スギナはシダ植物の仲間で、花や種子ではなく胞子で繁殖します。つくしの先端にある穂状の部分は花穂ではなく、胞子をつくる胞子嚢穂です。
つくしは食べられますか?
日本には、若いつくしを下処理して、おひたしや佃煮などにする食文化があります。ただし、野草の同定、採取地の汚染、農薬・除草剤などに注意が必要です。季節の料理として食べることと、乾燥粉末や茶を長期摂取することは分けて考えてください。
スギナ茶を飲むと、骨や髪、爪が強くなりますか?
その臨床効果は確認できません。健康な男性12人の研究ではスギナ茶由来のケイ素吸収が示されましたが、骨密度、骨折、髪、爪への効果は調べていません。含有成分と健康効果は同じではありません。
スギナ茶は、むくみや膀胱炎に効きますか?
特定の乾燥エキスに短期の利尿作用を示した小規模試験はありますが、むくみや膀胱炎の治療効果を証明したものではありません。むくみの背景には心臓・腎臓・肝臓の病気が、排尿症状の背景には感染症や結石がある場合があります。自己治療で受診を遅らせないでください。
スギナ茶は毎日飲んでも安全ですか?
誰にでも、どの製品でも、長期に安全とは言えません。製品ごとに部位、抽出法、濃度、チアミナーゼ管理が異なります。心臓・腎臓の病気、妊娠・授乳、服薬中、子どもの使用では自己判断を避け、日常的に利用する場合も基原と品質が明示された製品を選んでください。
参考文献・資料
植物同定・形態・文化
- Royal Botanic Gardens, Kew, Plants of the World Online: Equisetum arvense L.
- 公益社団法人日本薬学会「生薬の花:スギナ」
- 国立科学博物館「美味しい?危ない?きのこの秘密」つくし・地下茎の解説
制度・公定書・安全性
- 厚生労働省「食薬区分における成分本質(原材料)の取扱いの例示の一部改正について」(2023年)
- 厚生労働省「第十九改正日本薬局方 医薬品各条 生薬等」
- 厚生労働省「日本薬局方外生薬規格2022」
- European Medicines Agency, Equiseti herba
- Health Canada, Finished product specifications form user guide
現代研究
- Carneiro DM, et al. Randomized, Double-Blind Clinical Trial to Assess the Acute Diuretic Effect of Equisetum arvense in Healthy Volunteers. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:760683.
- Waterstradt A, et al. Silicon Resorption from Equisetum arvense Tea—A Randomized, Three-Armed Pilot Study. Planta Med. 2022;88(14):1360-1368.
- Costa-Rodrigues J, et al. Inhibition of human in vitro osteoclastogenesis by Equisetum arvense. Cell Prolif. 2012;45(6):566-576.
