脂質とは?|なぜ油は悪者になり、それでも身体に必要なのか

脂質と聞くと、「太る」「血管によくない」といった言葉が先に浮かびます。油を控えることが、健康的な食事の象徴として語られてきた時代もありました。

しかし脂質は、単に余ったエネルギーを蓄えるためのものではありません。細胞膜をつくり、食事からしか得られない脂肪酸を供給し、脂溶性ビタミンの吸収を助けます。脂質をすべて同じ「身体に悪い油」として扱うと、その役割も、注意すべき違いも見えなくなります。

大切なのは、脂質が善か悪かを決めることではなく、何を、どれほど、何と置き換えて食べるかを考えることです。

この記事の要点

  • 脂質は、1g当たり約9kcalを供給するエネルギー源である
  • 細胞膜の材料、必須脂肪酸の供給、脂溶性ビタミンの吸収などにも関わる
  • 食事から摂る必要がある必須脂肪酸は、リノール酸とα-リノレン酸である
  • 「植物性なら安全」「動物性なら悪い」と単純には分けられない
  • 脂質を減らすときは、何に置き換えるかによって健康への意味が変わる

脂質とは何か|油・脂肪・脂肪酸は同じではない

脂質は、水に溶けにくい性質をもつ化合物の総称です。食品に含まれる脂質の多くは、三つの脂肪酸がグリセロールに結合した「トリアシルグリセロール」、いわゆる中性脂肪の形をしています。

このほかにも、細胞膜を構成するリン脂質、コレステロールなどのステロール類が脂質に含まれます。脂肪酸は、それらの脂質を構成する部品の一つです。したがって、「脂質」「中性脂肪」「脂肪酸」「コレステロール」は、関係は深くても同じものではありません。

日常語では、常温で液体のものを「油」、固体に近いものを「脂」と書き分けることがあります。オリーブ油もバターも栄養学上は脂質の供給源であり、液体か固体かだけで健康への良し悪しは決まりません。

人はなぜ脂質を必要とするのか

少ない重量で多くのエネルギーを蓄えられる

脂質は1g当たり約9kcalを生みます。たんぱく質と炭水化物は1g当たり約4kcalなので、脂質は同じ重量で2倍以上のエネルギーをもつことになります。

食べ物をいつでも得られるとは限らなかった環境では、少ない重量で多くのエネルギーを運び、体内へ蓄えられることは重要でした。体脂肪には、エネルギーの貯蔵だけでなく、体温の保持や臓器を物理的に守る役割もあります。ただし、食事の脂質がそのまま体脂肪になるわけではなく、体重の変化は食事全体のエネルギー収支などに左右されます。

細胞を包む膜の材料になる

私たちの身体は数多くの細胞からできており、その一つひとつを区切る細胞膜にはリン脂質やコレステロールが使われています。脂質は燃料であるだけでなく、身体の境界と内部環境を保つ構造材でもあります。

食事からしか得られない脂肪酸がある

人の身体は多くの脂肪酸を合成できますが、n-6系のリノール酸とn-3系のα-リノレン酸は十分に合成できません。この二つは必須脂肪酸と呼ばれ、食事から摂る必要があります。

α-リノレン酸からEPAやDHAを体内でつくる経路はありますが、変換には限りがあります。一方、EPAとDHAそのものは魚介類などから摂ることもできます。「オメガ3」や「オメガ6」は一つの成分名ではなく、複数の脂肪酸をまとめた呼び方です。

脂溶性ビタミンの吸収を助ける

ビタミンA、D、E、Kは脂溶性ビタミンと呼ばれ、消化管から吸収される際に脂質や胆汁の働きを必要とします。野菜の栄養を考えるときも、油は常に避けるべき存在ではありません。ただし、油を加えれば加えるほど吸収が高まるという意味ではなく、食事全体の中に適量があればよいと考えます。

脂は貴重品から「健康の敵」へ変わった

油脂は、長いあいだ高密度のエネルギー源であると同時に、料理の風味を引き出し、食材を加熱するための貴重な資源でした。植物の種子や果実から油を搾るにも、家畜から脂を得るにも、原料と労力が必要です。食用だけでなく、灯火、軟膏、化粧、儀礼などにも使われました。

ところが20世紀になると、心血管疾患の増加を背景に、食事中の脂肪、飽和脂肪酸、コレステロールが強く注目されます。米国で1980年に公表された最初の「アメリカ人のための食生活指針」には、「脂肪、飽和脂肪、コレステロールを摂りすぎない」という勧告が掲げられました。脂質を控えることが公衆衛生上の大きなメッセージとなり、やがて低脂肪という表示自体が健康的な印象をもつようになります。

これは、当時の助言がすべて誤りだったという話ではありません。脂質はエネルギー密度が高く、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取には注意が必要です。一方、その後の研究と指針では、総脂質の量だけでなく、脂肪酸の種類と、減らした分を何に置き換えたかが重視されるようになりました。

たとえば飽和脂肪酸を減らしても、その分が精製されたでんぷんや砂糖の多い食品に置き換われば、同じ健康上の意味にはなりません。現在の脂質の議論は、「油を抜く」から「脂質の質と食事全体を見る」へ移っています。

脂肪酸の違い|植物性か動物性かだけでは分けられない

分類主な特徴多く含む食品の例考え方
飽和脂肪酸炭素鎖に二重結合をもたない脂身の多い肉、バター、乳脂肪、ラード、パーム油、ココナッツ油必要量が定められた必須栄養素ではなく、摂りすぎに注意する
一価不飽和脂肪酸二重結合を一つもつオリーブ油、菜種油、アボカド、ナッツ類飽和脂肪酸の置き換え先の一つになる
n-6系多価不飽和脂肪酸リノール酸などを含む大豆油、コーン油、ごま、ナッツ類リノール酸は必須脂肪酸。ゼロを目指すものではない
n-3系多価不飽和脂肪酸α-リノレン酸、EPA、DHAなどを含むえごま油、亜麻仁油、菜種油、青魚一種類の油だけでなく、植物と魚介類では含まれる脂肪酸が異なる
トランス脂肪酸不飽和脂肪酸の一部がトランス型になったもの一部の加工油脂を使った菓子・揚げ物、反すう動物の肉や乳にも少量生理的な必要性はなく、できるだけ少なくする

「植物油なら不飽和脂肪酸が多く、動物性脂肪なら飽和脂肪酸が多い」という傾向はあります。しかし例外もあります。ココナッツ油やパーム油は植物由来でも飽和脂肪酸が多く、魚の脂にはn-3系多価不飽和脂肪酸が含まれます。

食品を植物性・動物性という二つの箱だけに分けるより、どの脂肪酸をどれくらい含み、食事全体で何と組み合わされているかを見る方が実用的です。

コレステロールは脂肪酸ではない

コレステロールは脂質の一種ですが、脂肪酸ではありません。細胞膜の構成、胆汁酸やステロイドホルモンなどの材料として使われます。身体に必要なため、肝臓を中心に体内でも合成されています。

食事に含まれるコレステロールと、健康診断で測る血中LDLコレステロールは同じ指標ではありません。食事の影響には個人差があり、血中脂質は飽和脂肪酸の摂取、体重、遺伝、運動、喫煙、病気や薬など多くの要因に左右されます。

そのため、「卵を食べた量だけ血中コレステロールが増える」と考えるのも、「食事のコレステロールはまったく気にしなくてよい」と考えるのも単純すぎます。脂質異常症や糖尿病などで治療中の場合は、一般向けの記事ではなく、検査値と食習慣を踏まえた個別の助言が必要です。

脂質はどれくらい摂ればよいのか

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、18歳以上の脂質について、総エネルギー摂取量の20〜30%を目標量としています。飽和脂肪酸は18歳以上で7%以下が目標です。n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸については、年齢と性別ごとに目安量が示されています。

仮に1日2,000kcalを摂る人なら、脂質20〜30%は計算上およそ44〜67g、飽和脂肪酸7%はおよそ16g以下に相当します。ただし2,000kcalは説明のための例であり、必要なエネルギー量は体格、年齢、活動量などによって変わります。

WHOは成人の総脂質をエネルギーの30%以下、飽和脂肪酸を10%以下、トランス脂肪酸を1%以下とする指針を示しています。数値に違いがあるのは、対象集団や指標の目的が異なるためです。日本で日常の食事を考えるときは、まず日本人の食事摂取基準を参照するのが現実的です。

重要なのは「減らしたあとに何を食べるか」

脂質の健康影響を考えるとき、単に減らした量だけを見ることはできません。飽和脂肪酸の多い食品を減らし、不飽和脂肪酸を含む魚、ナッツ、種子、植物油へ置き換えることと、砂糖や精製でんぷんの多い菓子へ置き換えることは同じではないからです。

現在のWHO指針も、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、または全粒穀物・野菜・果物・豆類など食物繊維を自然に含む炭水化物源へ置き換えることを示しています。

つまり、バターをやめて「低脂肪」と書かれた甘い菓子を増やすのではなく、料理に使う油の一部を変える、脂身の多い肉が続く回数を減らして魚や豆を選ぶ、といった食事全体の置き換えが重要です。

日常では、油をどう選べばよいのか

  • 一種類を万能視しない:オリーブ油、菜種油、大豆油、ごま油などは脂肪酸組成や風味が異なる。魚、ナッツ、種子も含め、食品として分散させる
  • 飽和脂肪酸が重なっていないかを見る:脂身の多い肉、バター、クリーム、菓子類が同じ日に重なると摂取量は増えやすい
  • 揚げ油を繰り返し劣化させない:長時間の加熱、発煙するほどの高温、何度も繰り返す使用を避け、におい、色、粘りの変化した油は使わない
  • 「マーガリン=必ずトランス脂肪酸が多い」と決めつけない:製品改良で含有量は変化しており、商品ごとの差がある。名称だけでなく表示やメーカー情報を確認する
  • 油だけを切り離して評価しない:揚げ菓子や加工食品では、脂質に加えて砂糖、精製でんぷん、塩分、総エネルギーも重なる

食品安全委員会の評価では、日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は総エネルギーの約0.31%と推定され、WHOの1%未満という目標を下回っていました。ただし、この推定は過去の食品調査と国民健康・栄養調査に基づく集団平均です。菓子や揚げ物などに偏る人まで、必ず低いことを保証する数字ではありません。

よくある質問

脂質を食べると、そのまま体脂肪になりますか?

食事由来の脂質は体脂肪として蓄えられ得ますが、体重や体脂肪の変化は脂質だけで決まりません。炭水化物やたんぱく質を含む総エネルギー摂取量、消費量、代謝状態などが関係します。脂質は1g当たりのエネルギーが高いため過剰になりやすい一方、「脂質だけを抜けばよい」ともいえません。

ココナッツ油は植物性なので健康的ですか?

植物由来であることだけでは判断できません。ココナッツ油は飽和脂肪酸の割合が高く、オリーブ油や菜種油と同じ脂肪酸組成ではありません。香りを生かして少量使うことと、健康効果を期待して大量に追加することは分けて考える必要があります。

n-6系脂肪酸は炎症を起こすので避けるべきですか?

n-6系のリノール酸は必須脂肪酸であり、摂取をゼロにするべきものではありません。脂肪酸からつくられる物質の経路だけを見て、食品としての摂取がそのまま炎症性疾患を引き起こすと断定することはできません。n-6対n-3の比率だけに集中するより、魚、ナッツ、種子、植物油などの供給源を食事全体で整える方が現実的です。

脂質ゼロ・ノンオイルなら健康的ですか?

脂質を含まないことは、食品全体が健康的であることを意味しません。糖類、精製でんぷん、塩分、エネルギー量、食物繊維なども確認する必要があります。また、脂質を極端に制限すると、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの摂取に影響する可能性があります。

まとめ

脂質は、少ない重量で多くのエネルギーを蓄える仕組みであると同時に、細胞膜、必須脂肪酸、脂溶性ビタミンの吸収を支える栄養素です。身体に必要だから無制限に摂ってよいわけでも、エネルギーが高いから排除すべきものでもありません。

20世紀には、心血管疾患と食事の関係を背景に、脂質を減らすことが強く訴えられました。現在はそこから一歩進み、総量だけでなく、飽和・不飽和・トランス脂肪酸の違いと、減らした栄養素を何に置き換えるかが重視されています。

油を一つの善玉・悪玉に分けるのではなく、魚、肉、乳製品、豆、種子、ナッツ、植物油を含む食事全体を見ること。脂質との付き合い方は、「避ける」ことではなく、その役割と違いを知って配分することから始まります。

参考文献・資料

  1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
  2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)各論:脂質」
  3. World Health Organization. Total fat intake for the prevention of unhealthy weight gain in adults and children: WHO guideline. 2023.
  4. World Health Organization. Saturated fatty acid and trans-fatty acid intake for adults and children: WHO guideline. 2023.
  5. World Health Organization. WHO updates guidelines on fats and carbohydrates. 2023.
  6. 食品安全委員会「トランス脂肪酸―リスク評価の意味を知ってほしい―」
  7. U.S. Department of Health and Human Services. Nutrition and Your Health: Dietary Guidelines for Americans, 1980.

 

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