たんぱく質の“吸収力”を決める科学
──PDCAASとDIAASが示す、新しい「未病栄養設計」
🪶 概要 / TL;DR
同じ量のたんぱく質を食べても、吸収される割合は食品によって大きく異なります。
この“吸収力”を科学的に評価する指標が、PDCAAS(ピー・ディー・キャース)とDIAAS(ディアース)です。
本稿では、たんぱく質の「質」からさらに踏み込み、“どれだけ身体に使われるか”という視点で、
未病予防に役立つ食設計を解説します。
1️⃣ たんぱく質の「量」だけでは健康は測れない
多くの人が「1日○gのたんぱく質を摂る」ことを意識していますが、
吸収効率が低ければ、実際に身体に利用される量はもっと少なくなります。
たとえば、同じ10gのたんぱく質でも:
| 食材 | 吸収後に利用される割合(目安) |
|---|---|
| 卵・乳製品 | 約95% |
| 大豆 | 約90% |
| 穀類(白米・小麦) | 約70〜80% |
2️⃣ PDCAASとは?(古典的指標)
PDCAAS(Protein Digestibility-Corrected Amino Acid Score)は、
「アミノ酸スコア × 消化率」でたんぱく質の質を評価する方法です。
1991年にFAO/WHOが採用し、長く国際基準として利用されてきました。
PDCAAS = アミノ酸スコア × 消化率
(最大値は100で打ち止め)
例:
- 大豆たんぱく質:100
- 卵・乳:100
- 小麦たんぱく質:50〜60
ただしPDCAASは、腸全体での平均的な消化率を使うため、
「どのアミノ酸が、どの部位で吸収されにくいか」が見えないという弱点があります。
3️⃣ DIAASとは?(次世代型指標)
DIAAS(Digestible Indispensable Amino Acid Score)は、
PDCAASの改良版として2013年にFAOが提唱した新しい指標です。
✅ 小腸末端(回腸)での“アミノ酸ごとの吸収率”を測定
✅ 数値が100を超えても打ち切らず、そのまま評価
✅ 加熱・加工による栄養変化も反映可能
DIAASは、より実際の生理利用に近い評価ができます。
| 食材 | DIAASスコア(参考) |
|---|---|
| 牛乳・卵 | 120前後 |
| 大豆たんぱく | 約90 |
| 小麦たんぱく | 50〜60 |
| 米たんぱく | 60〜70 |
→ 「白米+大豆+卵/乳」の組み合わせは、
アミノ酸バランスだけでなく吸収効率の面でも理想的です。
4️⃣ 未病の視点:吸収力を“支える”食べ方
吸収率は腸内環境・消化酵素・調理法によっても変わります。
以下の3要素が「たんぱく質の未病設計」を左右します。
| 要素 | 科学的根拠 | 食養生的アプローチ |
|---|---|---|
| 🦠 腸内環境 | 腸内細菌がアミノ酸代謝に関与 | 発酵食品(味噌・納豆・ぬか漬け)を加える |
| 🔥 調理法 | 加熱しすぎるとリシン・メチオニンが変性 | 蒸す・煮るなど“穏やかな加熱”を心がける |
| 🌿 消化補助 | 酵素や苦味成分が胃腸を刺激 | 山椒・しょうが・ヨモギなどの芳香性薬味 |
「消化を助ける」ことも未病を防ぐ重要な栄養設計。
それは“食べたあとの流れ”を整える、古来の食養生そのものです。
5️⃣ まとめ|アミノ酸の質 × 吸収力 = 「使える栄養」
| 観点 | 指標 | 補足 |
|---|---|---|
| アミノ酸のバランス | アミノ酸スコア(前回) | 白米+大豆+魚で整える |
| 吸収・利用効率 | PDCAAS / DIAAS(今回) | 発酵・調理・腸内環境で高める |
→ 未病の鍵は「摂る」だけでなく、「使える形にする」こと。
食べ方まで含めた“吸収設計”こそ、未病を防ぐ栄養設計です。
🧩 たんぱく質の“吸収力”を高める栄養素たち
たんぱく質は体内で、アミノ酸に分解 → 再合成 → 利用という流れを経ます。
この過程で重要なのが、“補酵素(cofactor)”として働くビタミン・ミネラル群です。
| 栄養素 | 主な働き | 含まれる食品例 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ビタミンB6 | アミノ酸代謝を助ける | にんにく、まぐろ、バナナ | 「たんぱく質を燃やすスイッチ」 |
| ビタミンB2 | エネルギー変換を促進 | 卵、納豆、レバー | “代謝の潤滑油” |
| ナイアシン(B3) | NAD/NADPを介して代謝を補助 | 魚、鶏肉、落花生 | 酵素反応を活性化 |
| ビタミンC | コラーゲン合成、鉄吸収促進 | 柑橘類、ブロッコリー | アミノ酸(プロリン・リシン)の利用率↑ |
| 鉄・亜鉛 | 酵素活性中心として働く | 牡蠣、赤身肉、豆 | “たんぱく質の組立工” |
| マグネシウム | ATPと連携し代謝を支える | ナッツ、海藻 | “代謝の起動ボタン” |
💡「たんぱく質+補酵素栄養素」が揃って初めて、
“食べたたんぱく質が体で使われる”のです。
🌿 食養生の視点からみる「吸収を助ける食べ方」
| 観点 | 現代栄養学的ポイント | 食養生的解釈 |
|---|---|---|
| 発酵 | 酵素が分解を助け消化を軽減 | 「先に“生き物”に分解してもらう」智慧 |
| 香味 | 苦味・辛味が胃酸分泌を促す | 山椒・しょうが・ヨモギなど |
| 咀嚼 | 唾液酵素が分解を開始 | 「ゆっくり噛む=消化のはじまり」 |
🍶 味噌汁・納豆・漬物の“発酵+咀嚼”文化は、
実はたんぱく質吸収を最大化する「自然の酵素技術」です。
🧭 総括:たんぱく質設計の三原則
| ステップ | 科学的要点 | 食養生的翻訳 |
|---|---|---|
| ① バランスを整える | アミノ酸スコアを上げる(白米+豆+魚) | 「穀を主とし、豆を副とす」 |
| ② 吸収を高める | DIAAS・PDCAASを意識し腸環境を整える | 「食べたあとを整える」 |
| ③ 代謝を支える | ビタミンB群・ミネラルを補う | 「火(代謝)を灯す」 |
📊 研究データ比較:PDCAAS vs DIAASによる吸収効率評価
| 食品 | アミノ酸スコア | PDCAAS | DIAAS | 主な特徴 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| 卵 | 100 | 1.00 | 118 | “完全たんぱく質”。吸収効率も理想的。 | [4] |
| 牛乳(カゼイン) | 100 | 1.00 | 122 | 小腸での吸収率が高く、筋肉合成に有効。 | [4] |
| 大豆たんぱく | 100 | 1.00 | 91 | 優秀だがやや消化率が低い。発酵で改善。 | [4][6] |
| 小麦たんぱく | 45〜60 | 0.40〜0.50 | 55〜60 | リシン不足。米との補完が有効。 | [4] |
| 白米たんぱく | 65 | 0.63 | 60〜70 | 炭水化物主体。豆類で補完を。 | [4][5] |
| 魚類たんぱく | 約90 | 0.95 | 105前後 | 吸収率・利用率ともに高い。 | [5] |
| 豆+穀(ごはん+味噌汁) | 補完で100 | 約0.9 | 90〜100相当 | 日本の伝統食が科学的完全食。 | [1][3][5] |
📖 参考文献(対応番号付き)
- FAO/WHO (1991). Protein Quality Evaluation: Report of the Joint FAO/WHO Expert Consultation.
- FAO (2013). Dietary Protein Quality Evaluation in Human Nutrition.
- Schaafsma, G. (2012). Br J Nutr, 108(S2): S333–S336.
- Mathai, J. K. et al. (2017). Br J Nutr, 117(4), 490–499.
- 文部科学省『日本食品標準成分表 八訂』(2021)
- 岡村貞雄ほか (2019).『日本栄養・食糧学会誌』
摂るだけでなく、「どう活かされるか」に目を向けること。
それが、Ausadhihが考える“たんぱく質との付き合い方”です。
科学の視点と、昔ながらの食の知恵。
その交わるところにこそ、未病を防ぐ日常のヒントがあります。
