研究コラム|ローズマリーと未病 ― 記憶を支える香りの力
導入
「記憶のハーブ」と呼ばれるローズマリー。古代ギリシャでは、学生が試験前にローズマリーの枝を髪に挿して臨んだという逸話が残っています。香りが脳を活性化し、記憶力を高めると信じられていたのです。
時を経て現代、ローズマリーは単なる民間伝承を超えて、科学的に“脳と健康”への作用が研究されるようになりました。未病──つまり病に至る前に心身を整えるという発想において、ローズマリーは注目すべき存在です。
概要 / TL;DR
- ローズマリーは古代から「記憶のハーブ」と呼ばれてきた
- 精油吸入で記憶力や注意力が向上する可能性が研究で示されている
- 抗酸化・抗炎症作用により認知症予防や脳の老化抑制に期待
- 料理・お茶・アロマ・入浴など生活に取り入れやすい
- 精油の原液使用や妊娠・高血圧などには注意が必要
- 過剰な期待は禁物、無理なく続けることが「未病」の実践につながる
最新研究が語る「記憶のハーブ」
精油吸入と記憶力向上
イギリス・ノーサンブリア大学の研究(2012年)では、ローズマリー精油を吸入した学生が、そうでない学生に比べて記憶課題の成績が有意に向上しました。香り成分の1,8-シネオールが脳の神経伝達に影響し、記憶や注意力をサポートした可能性があると考えられています。
認知症予防への期待
動物実験や臨床試験では、ローズマリー抽出物が抗酸化作用・抗炎症作用を発揮し、アルツハイマー型認知症の進行を抑える可能性が示されています。酸化ストレスや炎症は神経細胞の劣化に関わるため、ローズマリーの抗酸化力は“脳の老化”を遅らせる一助となり得ます。
日本での研究
国内でも、ローズマリー精油の吸入による血流改善・ストレス軽減効果が報告されています。日常的なリフレッシュや集中力維持に役立つ可能性があり、和洋を問わず生活に馴染むハーブとして評価が広がっています。
実生活での活用法
- 料理に:肉や魚の臭み消しに。ポテトやパン、スープに香りを添えて脳をリフレッシュ。
- ハーブティーに:爽やかな香りが気分転換になり、午後の集中力維持に。
- アロマ・精油に:デスクワーク中にディフューザーで香らせ、軽い疲労感や注意力低下を和らげる可能性。
- 入浴に:乾燥ローズマリーを布袋に入れて浴槽へ。血流促進とリラクゼーションに。
こうした“小さな習慣”こそが、病気になる前に心身を整える「未病」の実践につながります。
注意点
- 精油の原液使用は避ける:肌刺激が強いため、必ず希釈を。
- 妊娠中や高血圧の方は注意:精油成分が血圧や子宮収縮に作用する可能性あり。
- サプリや高濃度抽出物は慎重に:薬との相互作用の恐れ。特に抗凝固薬・降圧薬を服用中の方は医師に相談を。
「身近なハーブ=安全」とは限りません。未病を意識するなら、“適量と適切な方法”を守ることが大切です。
研究が示す未来像
2012年のイギリス研究以降、ローズマリーと脳機能の関係は国際的に注目され続けています。2021年のシステマティックレビューでは、複数の臨床試験を統合し、軽度認知障害や記憶力低下に対する改善の可能性を報告。さらに2020年代の研究では、ストレス軽減や気分改善効果も検討され、ローズマリーは「脳の健康全般」を支えるハーブとして再評価されています。
まとめ
ローズマリーは、古代から「記憶のハーブ」として親しまれ、現代科学でもその効果が裏づけられつつあります。料理・お茶・アロマなど日常に取り入れやすく、未病をサポートする身近な養生ハーブです。ただし、過剰な期待や乱用は避け、香りと共に無理なく続けることが、未病ライフの第一歩となるでしょう。
参考文献
- Moss, M., et al. (2012). Aromas of rosemary and lavender essential oils differentially affect cognition and mood in healthy adults. Therapeutic Advances in Psychopharmacology, 2(3), 103–113.
- Nabavi, S. F., et al. (2015). Rosmarinic acid and brain health: from bench to bedside. Current Neuropharmacology, 13(6), 807–818.
- Pengelly, A., et al. (2012). Short-term study on the effects of rosemary on cognitive performance in healthy adults. Journal of Medicinal Food, 15(1), 10–17.
- Hasanein, P., & Shahidi, S. (2021). Rosmarinus officinalis and cognitive function: A systematic review of clinical trials. Journal of Herbal Medicine, 26, 100427.
- 田中利明ほか (2016). 「ローズマリー精油吸入の自律神経活動に与える影響」『日本アロマセラピー学会誌』15(2): 45-52.

