紫蘇|赤紫蘇と青紫蘇は、なぜ食と薬の境目にあるのか
梅干しを赤く染める赤紫蘇。刺身や冷ややっこに添える青紫蘇。乾燥して漢方処方へ入れば、蘇葉と呼ばれます。
スーパーでは野菜売り場にあり、薬局方では生薬として規格が定められている。同じ植物がこれほど自然に食と薬の間を行き来する例は、そう多くありません。
では、赤紫蘇と青紫蘇は別の植物なのでしょうか。「大葉」は品種名なのでしょうか。そして、料理に使う葉と生薬の蘇葉は、どこまで同じものなのでしょうか。
この記事の要点
- 赤紫蘇と青紫蘇は、基本的に同じシソの中にある栽培型
- 「大葉」は、主に青紫蘇の葉を商品として扱うときの呼び名
- 日本薬局方の蘇葉は、シソの葉と枝先を用い、ペリルアルデヒド量も規格化されている
- 赤紫蘇の色はアントシアニン、青紫蘇の香りにはペリルアルデヒドが深く関わる
- 「オメガ3が豊富」という説明は、主に葉ではなくシソ属の種子油の話
基本情報
- 和名:シソ(紫蘇)
- 学名:Perilla frutescens var. crispa
- 科名:シソ科(Lamiaceae)
- 主に用いられてきた部位:葉、枝先、茎、花穂、果実・種子
- 主な地域:日本、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア
- 主な文化的利用:香味野菜、漬物、着色、薬味、生薬、漢方処方
英国王立植物園KewのPlants of the World Onlineでは、シソに当たる Perilla frutescens var. crispa を、種 Perilla frutescens の変種として扱っています。
ただし、シソ属の分類には複数の考え方があり、古い文献やデータベースでは Perilla frutescens var. acuta、var. nankinensis など別の学名が使われることがあります。学名が違って見えても、必ずしも別種の植物を指しているとは限りません。
赤紫蘇と青紫蘇は、同じ植物なのか
赤紫蘇と青紫蘇は、植物学上まったく別の種ではなく、基本的には同じシソの中にある色や形、香りの異なる栽培型です。葉の表裏が紫色のもの、表が緑で裏が紫色のもの、両面が緑色のもの、葉が細かく縮れるものなどがあります。
農林水産省のシソ属の品種審査基準でも、葉の表面は黄緑・緑・灰緑・紫、裏面は緑・紫といった形質に分けて観察されます。赤か青かは、二つの種を分ける線ではなく、シソが持つ多様な形質の一つです。
赤紫蘇の赤は、どこから来るのか
赤紫蘇の葉色には、シソニンなどのアントシアニン系色素が関わります。シソニンは酸性の環境で鮮やかな赤色を示すため、梅の酸と出会うことで、梅干しや赤紫蘇漬けらしい色が現れます。
塩でもむ工程には、あくや余分な水分を出し、葉の組織を壊して色素を取り出しやすくする役割があります。赤紫蘇は単なる香りづけではなく、天然の色材としても食文化に組み込まれてきました。
青紫蘇は、香りを食べる葉
青紫蘇にも多様な成分がありますが、食卓で最も分かりやすい特徴は香りです。葉を刻んだり、手でたたいたりしたときに立つ香りには、ペリルアルデヒドなどの揮発性成分が関わります。
ただし、「赤紫蘇には色素、青紫蘇には香りだけ」と完全に分かれるわけではありません。ペリルアルデヒドやロスマリン酸の量は、葉色だけでなく、品種、栽培環境、収穫時期、開花の前後、保存条件によっても変わります。
| 呼び名 | 主に指すもの | 代表的な利用 |
|---|---|---|
| 赤紫蘇 | 葉に赤紫色の色素を持つシソ | 梅干し、しば漬け、赤紫蘇飲料、ゆかり |
| 青紫蘇 | 葉の両面が主に緑色のシソ | 薬味、刺身のつま、天ぷら、麺類 |
| 大葉 | 主に青紫蘇の葉を流通・販売するときの呼び名 | 香味野菜としての葉 |
| 蘇葉 | 生薬として用いるシソの葉と枝先 | 漢方処方 |
| 紫蘇子・蘇子 | 成熟した果実・種子に由来する生薬名 | 中国医学の処方など |
| 蘇梗 | シソの茎に由来する生薬名 | 中国医学の処方など |
大葉は、紫蘇とは別物なのか
大葉は、一般に青紫蘇の葉を野菜として流通させるときの呼び名です。植物学上の別種名ではありません。
青紫蘇という言葉は、芽、葉、花穂、実を含む植物全体にも使えます。一方、「大葉」は多くの場合、料理に使う一枚ずつの葉を指します。豊橋市の産業資料でも、大葉を「いわゆる青じそ」と説明し、刺身のつまや天ぷらに使う作物として紹介しています。
したがって、「大葉と紫蘇は違うのか」という問いには、大葉は青紫蘇の葉の商品名・流通名として定着した呼び方と答えるのが分かりやすいでしょう。
この植物はどんな薬草か
日本薬局方名称データベースでは、蘇葉をシソ Perilla frutescens var. crispa の「葉及び枝先」と定めています。さらに、乾燥物に対してペリルアルデヒドを0.07%以上含むことが規格の一つです。
ここで重要なのは、薬草としての蘇葉が、単に「乾かした大葉」ではないことです。原植物、使用部位、異物、成分量などを確認し、一定の品質を満たしたものが生薬として扱われます。
実際の医薬品原料には、香りと品質が安定するよう選抜・栽培された赤紫蘇系統が用いられることがあります。一方、スーパーの青紫蘇は、色、形、香り、葉の柔らかさなど、食材としての品質を重視して作られています。
野菜名と生薬名は、同じようで同じではない
青紫蘇、大葉、赤紫蘇は主に食品や栽培上の呼び名です。蘇葉は品質規格を持つ生薬名です。同じ原植物に由来しても、目的、加工、品質管理、使用量が異なります。
歴史と文化のなかでの利用
遺跡から出る種は、現在の大葉と同じなのか
日本の縄文時代の遺跡から、シソやエゴマに関係するシソ属の種実が見つかっています。このため、「シソは縄文時代から食べられていた」と紹介されることがあります。
ただし、種実だけから現代の赤紫蘇・青紫蘇・エゴマを常に明確に分けられるわけではありません。シソとエゴマは同じ Perilla frutescens に属する近縁の栽培型で、葉を主に使うシソと、種子や油を主に使うエゴマでは利用の重点も異なります。
遺跡の発見は、人々が非常に早い時期からシソ属植物を利用していた可能性を示します。しかし、それをそのまま「縄文人が現在の大葉を薬味にしていた」と読むことはできません。
中国では、葉・茎・種子を分けて使った
中国医学では、シソは一つの植物でありながら、葉、茎、果実・種子が異なる生薬名で整理されてきました。葉は紫蘇葉・蘇葉、茎は蘇梗、成熟した果実は紫蘇子・蘇子と呼ばれます。
これは「植物全体に同じ効能がある」という考えではありません。香りの強い葉、繊維質の茎、油を蓄える種子では、味も成分も調製法も異なります。人々は植物を丸ごと一つの薬として見るのではなく、部位ごとの性質を分けて使っていました。
日本では、薬と漬物の両方へ残った
日本では、シソは漢方処方の蘇葉として使われる一方、梅干し、しば漬け、薬味、刺身のつま、天ぷらなど、日常の食文化へ深く入りました。
赤紫蘇は塩と酸を利用する保存食に色と香りを与え、青紫蘇は生の香りを楽しむ薬味として発達しました。芽紫蘇、花穂紫蘇、穂紫蘇、紫蘇の実まで使い分ける料理文化は、葉だけでなく、成長段階ごとの食感と香りを利用したものです。
この姿は、食物と薬物を完全に分離しなかった東アジアの暮らしをよく表しています。ただし、食卓で長く使われてきたことは、濃縮物や医薬品を自由に大量摂取してよいことを意味しません。
伝統的に語られてきた使われ方
中国医学では、蘇葉は伝統的に「解表散寒」「行気和胃」などの言葉で説明され、寒気を伴う初期の不調、胸や腹のつかえ、吐き気などに関係する処方へ組み込まれてきました。
日本の漢方では、蘇葉を含む処方として半夏厚朴湯や香蘇散などがあります。半夏厚朴湯では半夏、茯苓、厚朴、生姜などと、香蘇散では香附子、陳皮、甘草、生姜などと組み合わされます。
ここでの「気」「寒」「胃」は、中国医学の診断体系に基づく概念です。現代医学の胃腸病、感染症、不安障害などと一対一で対応するものではありません。また、漢方処方は複数の生薬の組み合わせで成り立ちます。大葉を食べることを、処方の代わりにすることはできません。
現代研究で注目される成分
ペリルアルデヒド
ペリルアルデヒドは、シソらしい香りを形づくる代表的な揮発性成分です。日本薬局方では蘇葉の定量指標にもなっています。
抗菌作用などが試験管内で研究されていますが、刺身に大葉を添えれば食中毒を防げる、という意味ではありません。香味野菜は衛生管理や適切な冷蔵の代わりにはならず、葉そのものも十分に洗って扱う必要があります。
ロスマリン酸
ロスマリン酸は、ローズマリーだけでなく、シソ、ミント、レモンバームなど複数のシソ科植物に含まれるポリフェノールです。炎症やアレルギー反応との関係が基礎研究で調べられています。
ロスマリン酸を多く含むシソ抽出物を用いた小規模な臨床試験もありますが、家庭で食べる大葉数枚と、成分量を調整した抽出物は同じではありません。シソの葉を、アレルギー疾患などの治療薬として置き換える根拠にはなりません。
シソニンなどのアントシアニン
赤紫蘇には、シソニンを中心とするアントシアニン系色素が含まれます。これらの色素には抗酸化作用が研究されていますが、食品中で色を楽しむことと、病気を予防・治療する効果を証明することは別です。
赤紫蘇と青紫蘇を比べた研究では、赤紫蘇にアントシアニンが多く、青紫蘇でペリルアルデヒドやロスマリン酸が多かった例があります。しかし、この差はすべての品種と栽培条件にそのまま当てはまるわけではありません。
オメガ3は、葉より種子油の話
シソについて「オメガ3脂肪酸が豊富」と説明されることがあります。α-リノレン酸を多く含むことで知られるのは、主にシソ属植物の種子から搾る油です。「えごま油」は一般にエゴマ Perilla frutescens var. frutescens の種子に由来し、「しそ油」の名で流通する製品にもシソ属の種子油があります。名称だけでなく原材料表示を確認することが大切です。
青紫蘇の葉にも脂質は含まれますが、一枚の葉は軽く、油脂食品ではありません。大葉を数枚食べることと、種子油を小さじ一杯使うことを、同じ栄養摂取として数えることはできません。
利用上の注意
食品として通常量のシソを食べることと、乾燥粉末、抽出物、精油、生薬、漢方薬を継続して使うことでは、摂取する成分量が異なります。
- シソを食べた後に、口のかゆみ、じんましん、息苦しさなどが出た場合は利用を中止し、症状に応じて医療機関へ相談する
- シソ精油は葉の香り成分を濃縮したものであり、料理の大葉と同じ感覚で飲用・塗布しない
- 服薬中、妊娠中、授乳中、持病がある場合は、生薬・漢方薬・濃縮サプリメントを自己判断で追加しない
- ワルファリンなど食事の影響を受ける薬を服用している場合、大量の青汁や粉末を習慣化する前に医師・薬剤師へ相談する
- 長く続く吐き気、腹痛、咳、のどの違和感などを、シソだけで対処しない
精油・抽出物・漢方薬は「大葉を多く食べる」のとは違う
濃縮製品では、食品として一度に食べる量を超える成分を摂取することがあります。治療中の症状や薬がある場合は、製品名と摂取量を医師・薬剤師へ伝えてください。
植物と製品を見分けるときの注意
シソとエゴマは近縁で、自然交雑することもあります。こぼれ種で育った株では、前年と葉色、縮れ、香りが変わることがあります。赤い葉なら薬用、緑の葉なら食用と、色だけで決めることはできません。
また、乾燥葉や粉末になると、見た目だけで原植物、使用部位、農薬の使用状況、成分量を判断できません。食品、生薬、サプリメント、精油のどれに当たるのかを確認し、表示された用途と量に従います。
野外にはシソ科のよく似た植物が多くあります。葉が対生し、茎が四角く、香りがあるという特徴だけで食用と判断しないでください。食用として栽培・流通したものを利用するのが安全です。
よくある質問
赤紫蘇と青紫蘇は、どちらが身体によいですか?
含まれる成分の傾向は異なりますが、どちらか一方を万能とする根拠はありません。赤紫蘇はアントシアニンによる色、青紫蘇は生で使いやすい香りが特徴です。料理の目的と好みに合わせて選ぶのが現実的です。
大葉と青紫蘇は同じですか?
一般には同じ植物を指します。青紫蘇は植物全体にも使う呼び名で、大葉は主に食用として販売される青紫蘇の葉を指す流通名です。
スーパーの大葉を乾燥させれば、蘇葉になりますか?
乾燥した青紫蘇葉を食品として利用することはできますが、日本薬局方の蘇葉と同じ品質が保証されるわけではありません。生薬の蘇葉には、原植物、部位、成分量などの規格があります。自家製乾燥葉を漢方薬の代わりにしないでください。
紫蘇ジュースでアレルギー症状は改善しますか?
ロスマリン酸を含む調整抽出物の研究はありますが、家庭の紫蘇ジュースとは濃度や組成が異なります。砂糖の量も製法によって大きく変わります。飲み物として楽しむことと、アレルギー疾患を治療することは分けて考えてください。
エゴマと紫蘇は同じですか?
どちらも同じ種 Perilla frutescens に属する近縁の栽培型です。一般にシソは葉や香りを、エゴマは種子や油を主に利用します。用途、葉の形、香り、種子の性質が異なるため、料理では同じものとして扱わない方がよいでしょう。
まとめ
赤紫蘇と青紫蘇は、別々の種ではなく、同じシソの中で色や香りの特徴が異なる栽培型です。青紫蘇の葉は大葉として売られ、赤紫蘇は漬物と着色に使われ、品質を整えた葉と枝先は蘇葉という生薬になります。
現代研究は、ペリルアルデヒド、ロスマリン酸、アントシアニンなど、色と香りを支える成分を明らかにしてきました。しかし、試験管内の作用、調整された抽出物、食卓の大葉を一つの「効能」にまとめることはできません。
紫蘇が食と薬の境目にあるのは、曖昧な植物だからではありません。人々が葉の色、香り、茎、種子、成長段階を観察し、それぞれに別の役割を与えてきた植物だからです。
参考文献・資料
公的機関・植物データベース
- 国立医薬品食品衛生研究所「日本薬局方名称データベース:ソヨウ」
- 薬用植物総合情報データベース「ソヨウ」
- Royal Botanic Gardens, Kew, “Perilla frutescens var. crispa”
- 農林水産省「シソ属 審査基準」
- 豊橋市『豊橋市の産業』「大葉」
- ツムラ「漢方半夏厚朴湯エキス顆粒」
- 医薬品医療機器総合機構「ワルファリンと食事について」
歴史・植物利用
- Nitta M., Ohnishi O., “Genetic relationships among two Perilla crops, shiso and egoma, and the weedy type revealed by RAPD markers,” 1999
- 「シソ・エゴマ―葉っぱとタネと食文化」『食品・食品添加物研究誌』
- 奈良文化財研究所「平城宮・京出土の植物種実」
- 農林水産省「うちの郷土料理:しば漬け 京都府」
現代研究
- Lu N. et al., “Growth and Accumulation of Secondary Metabolites in Perilla as Affected by Photosynthetic Photon Flux Density and Electrical Conductivity of the Nutrient Solution,” 2017
- Lee J. et al., “Antioxidant compounds and activities of Perilla frutescens var. crispa,” 2023
- Takano H. et al., “Extract of Perilla frutescens enriched for rosmarinic acid, a polyphenolic phytochemical, inhibits seasonal allergic rhinoconjunctivitis in humans,” 2004
- Li M. et al., “Perilla Seed Oil: A Review of Health Effects, Encapsulation Strategies, and Applications,” 2024
- Yi D. et al., “Comprehensive Review of Perilla frutescens: Chemical Composition, Pharmacological Mechanisms, and Applications,” 2025
