カキドオシ|垣根を越える草は、なぜ「連銭草」になったのか

春の道ばたや林の縁に、紫色の小さな花を咲かせる草があります。

花の頃には茎を少し立ち上げていますが、花が終わると地面へ伏し、節ごとに根を下ろしながら長く伸びていきます。庭に入れば、気づいた頃には垣根の向こうまで続いている。

この姿から生まれた和名が、カキドオシ(垣通し)です。

一方、薬草としては「レンセンソウ(連銭草)」とも呼ばれてきました。丸い葉を昔の銭に見立て、それが茎に沿って連なる姿を表した名です。

垣根を越える草と、銭を連ねた草。

二つの名は、どちらも効能ではなく、植物の伸び方と葉の形から生まれています。

ところが、「連銭草」という名を中国の薬草書や現代の制度で追うと、カキドオシとは別の植物も現れます。ツボクサ、中国の活血丹、さらに一字違いの金銭草。丸い葉を銭に見立てた名は分かりやすかったため、一つの植物だけに固定されなかったのです。

この記事の要点

  • カキドオシは、花後に長い茎を地面へ伸ばし、節から発根して広がるシソ科の多年草
  • 和名「垣通し」は伸び方、生薬名「連銭草」は丸い葉が連なる形を表す
  • 日本では「疳取草」とも呼ばれ、子どもの疳などに用いる民間薬として知られた
  • 日本のレンセンソウと、中国薬典の「連銭草」は基原植物の表記が異なる
  • 「連銭草」はツボクサの別名にもなり、一字違いの「金銭草」はさらに別の生薬である
  • 日本のカキドオシは、第十九改正日本薬局方にも日本薬局方外生薬規格2022にも収載されていない
  • 2026年8月の食薬区分では全草が食品原料側だが、疾病への効果を表示できるという意味ではない
  • 血糖や尿酸に関する研究は主に動物・試験管段階で、治療効果は確立していない

基本情報

  • 和名:カキドオシ
  • 漢字表記:垣通し
  • 日本の公的資料で用いられる学名:Glechoma hederacea L. subsp. grandis (A.Gray) H.Hara
  • 現在の分類で独立種とする場合:Glechoma grandis (A.Gray) Kuprian.
  • 科名:シソ科(Lamiaceae)
  • 生活型:多年草
  • 主に用いられてきた部位:開花期の全草
  • 生薬名・民間薬名:レンセンソウ(連銭草)
  • 別名:カントリソウ(疳取草)
  • 主な分布:日本各地を中心とする東アジア
  • 主な生育環境:道ばた、林縁、藪、庭、畦畔など

カキドオシは、茎の断面が四角く、葉が二枚ずつ向かい合ってつくシソ科植物です。葉は腎形から腎心形で、縁には丸みのある鋸歯があります。春には葉の付け根へ紅紫色の唇形花を一~数個ずつ咲かせます。

葉を軽く揉むと、シソ科らしい香りがあります。ただし、香りだけで植物を同定することはできません。

学名には二つの表記が見られます。日本の薬用植物データベースや2026年の食薬区分は、カキドオシを Glechoma hederacea subsp. grandis と記載しています。一方、英国王立植物園キューの Plants of the World Online は、Glechoma grandis を独立した種として扱っています。

これは、二つのカキドオシが存在するという意味ではありません。日本のカキドオシを、ヨーロッパなどのセイヨウカキドオシ G. hederacea の亜種とするか、独立種とするかという分類上の扱いの違いです。

なぜ、垣根の向こうまで伸びるのか

カキドオシは、つる植物のように垣根へ巻きつき、上へ登るわけではありません。

花の後に茎を地面へ倒し、横へ長く伸ばします。葉の付く節が土に触れると、そこから根を出し、新しい茎を立ち上げます。親株から伸びた茎が次々と根づくため、一株から広い範囲を覆うことができます。

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の栽培データでは、北海道で定植した株が47日後に一株あたり1.8~2.6平方メートルを占め、茎の合計長が32~47mに達した事例も紹介されています。

「垣根を通り抜ける」という語源は、単なる誇張とも言い切れません。低い茎が地表の隙間をたどり、節ごとに足場を増やしていくカキドオシの生態を、よく表した名です。

この広がり方は、種子だけに頼らず、同じ個体の一部を増やしていく栄養繁殖です。踏み跡へ種子を運ばせるオオバコとは違い、カキドオシは地面へ茎の網を広げることで、人里の縁に残ります。

丸い葉が「連なった銭」に見えた

薬草名のレンセンソウは、漢字で「連銭草」と書きます。

昔の穴あき銭は、紐へ通してまとめることがありました。カキドオシの丸い葉が細い茎の両側へ続く姿は、銭を連ねたようにも見えます。

和名の「垣通し」が茎の動きを捉えた名なら、「連銭草」は葉の並びを捉えた名です。どちらも、花の短い時期だけでなく、長く伸びる植物全体を観察しなければ生まれにくい呼び方です。

ただし、「連銭草」という名が最初から日本のカキドオシだけを指していたわけではありません。

生薬史の解説では、「連銭草」の古い用例は、中国本草における「積雪草」の別名として現れたとされます。現在、積雪草の基原はセリ科のツボクサ Centella asiatica です。ツボクサも地面を這い、丸い葉を長い葉柄の先につけます。

つまり「連なった銭」という形容は、カキドオシ以外の匍匐植物にも当てはまりました。

植物の形を日常の物にたとえた名は覚えやすい反面、似た形の別種へ移りやすい。連銭草は、その典型です。

日本の「連銭草」と中国の「連銭草」は同じか

現在の日本で、レンセンソウといえば、一般にカキドオシの開花期の全草を乾燥したものを指します。

ところが、中国薬典2025年版の「連銭草」は、活血丹と呼ばれる Glechoma longituba の乾燥地上部です。キューの植物データベースでも、G. longituba と日本の G. grandis は別の受容種として扱われています。

さらに、日本の最新の食薬区分では、カキドオシだけでなく、ツボクサの別名欄にも「連銭草」が記載されています。

そして一字違いの「金銭草」は、中国薬典ではサクラソウ科の Lysimachia christinae を基原とする別の生薬です。「広金銭草」まで含めれば、マメ科の Desmodium styracifolium という、さらに別の植物が現れます。

呼び名主に対応する植物現在の位置づけ
日本のレンセンソウ
連銭草
カキドオシ
Glechoma grandis
または G. hederacea subsp. grandis
シソ科日本の民間薬名。主に開花期の全草
中国薬典の連銭草活血丹
Glechoma longituba
シソ科中国薬典収載生薬。乾燥地上部
積雪草の別名としての連銭草ツボクサ
Centella asiatica
セリ科古い本草名・別名。現代日本の食薬区分にも別名として記載
中国薬典の金銭草過路黄
Lysimachia christinae
サクラソウ科連銭草とは別の中国生薬

漢字一文字の違い、あるいは同じ漢字名だけで原料を判断するのは危険です。

薬草を比較するときは、和名や生薬名だけでなく、学名、使用部位、地域の公定書、製品表示まで確認する必要があります。「中国でも連銭草が使われるから、日本のカキドオシと同じ」という読み替えはできません。

名前が同じでも、同じ生薬とは限らない

薬草名は、植物分類が整う以前から使われてきました。形、土地、用途からついた呼び名には、同名異物と異名同物が起こります。古い文献の「連銭草」「金銭草」を、現代の一種へ無条件に置き換えないことが大切です。

「疳取草」は、子どもの薬だったのか

カキドオシには、カントリソウ(疳取草)という別名があります。

「疳」は、現在の一つの病名に対応する言葉ではありません。乳幼児の夜泣き、機嫌の悪さ、ひきつけ、食欲不振、消化の不調など、子どもに見られるさまざまな状態を、昔の人がまとめて捉えた概念です。

日本では、カキドオシをこの「疳」に用いる民間薬として知られたため、疳取草の名が定着しました。ほかにも、咳、尿の不調、むくみなどへ用いた記録があります。

ただし、これは現代の小児に対する有効性と安全性を確認したという意味ではありません。

夜泣きや不機嫌の背景には、空腹、睡眠環境、発熱、痛み、感染症など多くの原因があります。ひきつけや意識の変化は、緊急の評価が必要なこともあります。「昔は疳取草だった」ことを理由に、乳幼児へ自家製の煎液を与えるべきではありません。

カントリソウという名は、家庭で子どもの不調に向き合った民間医療の歴史を示す名前として読むのが適切です。

日本薬局方の生薬なのか

カキドオシは薬草図鑑や生薬事典で「レンセンソウ」と紹介されます。

しかし、2026年4月施行の第十九改正日本薬局方に、レンセンソウの医薬品各条はありません。日本薬局方に未収載の生薬を規格化する日本薬局方外生薬規格2022にも、レンセンソウは収載されていません。

つまり、日本のレンセンソウは、ウツボグサのカゴソウやオオバコの車前草・車前子のような、現行の公定規格を持つ生薬ではありません。

これは、利用の歴史がなかったという意味でも、植物に成分がないという意味でもありません。民間で用いられてきた一方、現在の日本では基原、性状、確認試験、純度などを公定書で統一した医薬品原料にはなっていない、ということです。

食品原料側なのに、薬草と呼ばれるのはなぜか

2026年8月5日に更新された厚生労働省の食薬区分では、カキドオシ Glechoma hederacea subsp. grandis全草が、「医薬品的効能効果を標榜しない限り医薬品と判断しない成分本質」の例示リストに載っています。

簡単にいえば、カキドオシを食品原料として扱う余地はあります。

ただし、この区分は、カキドオシ茶に糖尿病、結石、腎炎、子どもの疳などへの効果が認められたという承認ではありません。食品として販売しながら、病気の治療・予防をうたえば、無承認医薬品と判断されることがあります。

また、食品原料側にあることは、野外の株を誰でも、どの量でも、長期に飲めるという安全保証でもありません。

カキドオシは、民間薬の歴史を持ちながら、現代制度では公定生薬ではなく、効能を標榜しない食品原料にもなりうる植物です。薬草と健康茶の境界が、植物名だけでは決まらないことをよく示しています。

この境界については、関連記事「薬草茶は、いつから日常の飲み物になったのか|煎じ薬と健康茶の違い」で詳しく整理しています。

現代研究で注目される成分

日本のカキドオシからは、次のような成分群が報告されています。

  • ロスマリン酸などのフェノール酸
  • アピゲニン、ルテオリンとその配糖体などのフラボノイド
  • ウルソール酸などのトリテルペン
  • リモネン、メントン、プレゴン、ピノカンフォン類などの精油成分
  • タンニン、ステロール、アミノ酸、カリウム塩など

成分の種類と量は、植物の系統、産地、採取時期、乾燥、抽出方法によって変わります。また、セイヨウカキドオシや中国の G. longituba で得られた分析結果を、日本のカキドオシへそのまま移すことはできません。

尿酸の研究は、酵素を使った試験管内の結果

2013年の研究では、日本で流通していたカキドオシ茶の葉から成分を分離し、尿酸生成に関わる酵素キサンチンオキシダーゼへの作用を試験管内で調べました。

アピゲニンとルテオリンに強い酵素阻害活性が見られ、煮出した抽出液の活性の一部に寄与すると推定されました。

しかし、これは人がカキドオシ茶を飲むと血清尿酸値が下がることや、痛風を予防・治療できることを示した試験ではありません。消化、吸収、代謝、摂取量、安全性は評価されていません。

血糖の研究は、ラットの糖負荷試験

2007年には、カキドオシの葉と茎の熱水抽出物をラットへ与え、ショ糖負荷後の血糖値を調べた研究が報告されています。正常ラットと糖尿病モデルラットの一部の時間帯で、対照群より血糖上昇が抑えられました。

こちらも対象はラットです。人の糖尿病治療に有効であること、日常的なカキドオシ茶で同じ結果が得られることを証明していません。

伝統的に糖尿病や結石へ使われたという話と、現代の治療効果が確立していることの間には、大きな距離があります。

カキドオシ茶を治療薬の代わりにしない

糖尿病、高尿酸血症、痛風、尿路結石、腎臓病は、検査と継続的な管理が必要です。服薬や食事療法を中断したり、激しい腰背部痛、発熱、血尿、嘔吐、尿が出にくい状態を薬草で様子見したりしないでください。

見分けるときの注意

カキドオシを観察するときは、丸い葉だけで判断しません。

  • 茎:シソ科らしく断面が四角い
  • 葉:二枚ずつ向かい合い、腎形から腎心形。縁に丸い鋸歯がある
  • 花:春に紅紫色の唇形花を葉腋につける
  • 香り:葉を揉むと芳香がある
  • 伸び方:花後、茎を地面へ長く伸ばし、節から発根する

園芸店で「グレコマ」「グラウンドアイビー」として売られる斑入り植物は、ヨーロッパ系のセイヨウカキドオシ Glechoma hederacea の園芸品種であることがあります。観賞用に流通する植物を、日本の民間薬レンセンソウとして飲用するべきではありません。

ツボクサ、チドメグサ類、ムラサキサギゴケなどにも、地面を這い、丸みのある葉や紫色の花を持つものがあります。写真判定だけで採取・利用せず、観察は花、茎、葉の付き方、香り、生育全体を組み合わせて行います。

利用上の注意

  • 野外採取品を自己判断で飲まない:誤同定、農薬、除草剤、排気、動物の排泄物、土壌汚染、カビなどの問題があります。
  • 子どもへ「疳取草」として与えない:民間名は現代の小児への有効性と安全性を保証しません。けいれん、意識変化、発熱などは医療機関へ相談してください。
  • 妊娠・授乳中は自己使用を避ける:安全性情報が十分ではなく、精油成分としてプレゴンなども報告されています。
  • 持病や服薬がある人は相談する:糖尿病、腎臓・肝臓の病気、利尿薬や血糖降下薬などを使用している場合は、医師・薬剤師へ確認してください。
  • 濃縮物や精油を自作しない:乾燥草を湯で抽出する場合と、精油・高濃度抽出物では成分量と安全性が異なります。
  • 長期・大量摂取を前提にしない:食品原料側の区分は、あらゆる用量での長期安全性を証明する制度ではありません。
  • 園芸品種で代用しない:グレコマとして流通する植物の基原、栽培時の農薬、食用適性は保証されません。

まとめ

カキドオシは、春の花だけで生きる植物ではありません。

花を終えると茎を地面へ倒し、節から根を下ろしながら、垣根の向こうまで広がっていきます。その動きが「垣通し」という和名になりました。

茎に連なる丸い葉は、紐でつないだ銭に見立てられ、「連銭草」という名になりました。

しかし、形から生まれた名前は、似た姿の別の植物にも使われました。日本のカキドオシ、中国の Glechoma longituba、積雪草のツボクサ。さらに一字違いの金銭草まで加わり、名前だけでは基原を決められなくなります。

日本のカキドオシは、疳取草として家庭に知られた民間薬です。一方、現代の日本薬局方や局方外生薬規格には収載されず、食薬区分では効能をうたわない食品原料側に置かれています。

カキドオシが薬草になった理由は、効能を先に証明できたからではありません。人の暮らしのそばで広がる姿が名づけられ、家庭で使われ、その記憶が「連銭草」「疳取草」という名に残ったからです。

垣根を越える一株は、植物の強さだけでなく、薬草名が地域と時代を越えるうちに、別の植物へも根を下ろしていく過程を見せています。

よくある質問

カキドオシと連銭草は同じものですか?

日本の民間薬では、一般にカキドオシの開花期の全草をレンセンソウ(連銭草)と呼びます。ただし、歴史上はツボクサなど別の植物にも同じ名が使われ、現代中国の連銭草も日本のカキドオシと同じ基原表記ではありません。

中国の連銭草も、日本のカキドオシですか?

同一扱いはできません。中国薬典2025年版の連銭草は Glechoma longituba の乾燥地上部です。日本のカキドオシは、現在の分類では主に Glechoma grandis または G. hederacea subsp. grandis と表記されます。

連銭草と金銭草は同じですか?

違います。中国薬典の金銭草は、主にサクラソウ科の Lysimachia christinae を基原とする別の生薬です。漢字名が似ていても、植物、科、使用部位、規格が異なります。

カキドオシは日本薬局方の生薬ですか?

いいえ。レンセンソウは、第十九改正日本薬局方にも日本薬局方外生薬規格2022にも収載されていません。日本でよく知られた民間薬名ですが、現行の公定規格を持つ生薬ではありません。

カキドオシ茶は糖尿病や痛風に効きますか?

治療効果は確立していません。血糖に関する報告はラット試験、尿酸生成酵素に関する報告は試験管内研究です。人の糖尿病、高尿酸血症、痛風への有効性と安全性を証明するものではなく、治療の代わりにはできません。

カキドオシは食品として飲めますか?

日本の最新の食薬区分では、全草が効能を標榜しない限り医薬品と判断しない原材料側にあります。ただし、野草採取の安全性や長期・大量摂取を保証する制度ではありません。利用する場合は基原と品質が明示された食品を選び、治療目的の自己使用は避けてください。

庭のグレコマをカキドオシ茶にできますか?

勧められません。園芸流通のグレコマはセイヨウカキドオシの品種である場合があり、観賞用農薬の使用や食用適性も確認できません。日本の民間薬レンセンソウと同一扱いしないでください。

参考文献・資料

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