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仙女伝説

*『日本霊異記』上巻十三話

宇太郡の塗部里にある女人が住んでいて、郡内の塗部造りの妾となり、七人の子を儲けた。極貧の生活状態であったが、彼女は宇陀の山野で野草を摘み、それを菜として子供らと慎み深く食事する日々を過ごしていた。

孝徳朝の甲寅の年(654年)に、そうした彼女の風流が神仙の心に通じ、彼女は昇仙して空を飛んだという。塗部里に住む女人が宇陀の地で日々水浴し、山野の野草を摘んで食べ、風流な生活をすごしていたことにより、天仙となったと語り伝えている。

大倭の国宇太の郡塗部の里に、風流ある女有り。是即ち彼の部内の塗部造麿が妾なり。天年風声を行とし、自性塩醤ヲ心に在す。七の子を産生む。極めて窮しくて食夭く、子を養ふに便夭く、衣夭く藤を綴る。

日々沐浴みて身を潔め綴を著る。毎に野に臨み草を採るを事とし、常に家に住み家を浄むるを心とす。菜を採り調へ盛りて、子を唱ぶ端坐して、咲を含み馴れ言ひて、敬を致して食ひ、常に是の行を以て心身の業とす。

彼の気調恰モ天上の客の如し。是に難波の長柄の豊前の宮の時に、甲寅の年、其の風流の事、神仙感応し、春の野に菜を採り、仙草を食ひて天に飛びき。誠に知る、仏法を修せ不して、風流を好み仙薬感応することを。

精進女門経に云ふが如し。「俗家に居住し、心を端しくして庭を掃へば、五功徳を得」といふは、其れ斯れを謂ふなり。

日本古典文学大系『日本霊異記』より

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